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東京高等裁判所 昭和56年(行ケ)167号 判決

事実及び理由

一  請求の原因一ないし三の事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、審決を取り消すべき事由の存否について検討する。

1  本願考案と第一引用例記載の考案との相違点に対する判断の当否について

本願考案の要旨は前示のとおりであり、第一引用例(実用新案出願公告昭三五―三三三七五号公報)には、「先端頭部に超硬合金のチツプ14を植えて刃部とした棒状シヤンク13と装着用柄部11とより成り、刃部は複数条のチツプが螺状に植えられ、前方に3の喰付き角のテーパを形成すると共に後方は案内刃とし、刃の外面には逃げ角を形成し、溝の形状を鋸刃形とし、棒状シヤンクの後半部は螺状の油溝12を形成したリーマ」(別紙図面(二)参照)に関する考案が記載されていることは当事者間に争いがないところ、原告は、当事者間に争いのない審決認定の本願考案と第一引用例記載の考案との相違点(1)、(2)、(4)、(5)に対する審決の判断は誤つている旨主張するので、以下、この点について検討する。

(一)  相違点(1)について

本願考案においては刃部1全体が超硬合金により一体として形成されているのに対し、第一引用例記載の考案においては刃部の刃は超硬合金植刃であるという点で相違している。

ところで、第三引用例(昭和四〇年八月一〇日株式会社ラジオ技術社発行「穴加工と穴加工用工具の設計」)の第二〇六、第二〇七頁に、刃部全体を超硬合金で形成したリーマが記載されていることは当事者間に争いがなく、右事実及び第一引用例に開示された技術によれば、超硬合金をリーマの刃部の材質として用いる場合、刃部全体を超硬合金で形成するか、超硬合金植刃とするかは、当業者において選択的に採用しうる周知の技術手段と認めるのが相当であつて、第三引用例記載の右技術を第一引用例記載の考案に応用して、本願考案のように刃部全体を超硬合金で形成することが格別困難であるとは認め難い。

原告は、第三引用例記載のリーマの刃は極めて小径の直状のものであり、また、第一引用例記載のリーマの刃も直状に近い螺状のものであつて、右各引用例記載の刃部と超ねじれ角で形成されている本願考案の刃部とは、リーマの中で分野を異にするものであることや刃部全体を超硬合金とする技術は直状であるものについて利用されていたことからすると、第一引用例記載の考案に第三引用例記載の前記技術を応用して、本願考案のような超ねじれ刃を超硬合金とすることは、当業者が極めて容易に想到しうる程度のことではない旨主張する。

しかしながら、第二引用例(英国特許第五九二八八八号明細書)に、「工具本体11と柄部21とより成り、工具本体は切刃12、13と共に柄部21と一体であり、切刃12、13は二条より成ると共にねじれ角は左七〇度以上とし、前方に約一〇〇分の一のテーパを形成すると共に後方は平行円柱体とし、切刃の溝の形状を鋸刃状としたリーマ」(別紙図面(三)参照)について記載されていることは当事者間に争いがなく、右事実によれば、リーマの刃部の刃を超ねじれ角としたものも本願考案の出願当時よく知られていたものであると認めるのが相当である。そして、刃部の刃を超ねじれ角とした場合であつても、当該リーマの技術的課題に則して刃部の材質を選定することは当然のことであり、その場合に、リーマの刃部全体を超硬合金で一体に形成する技術が本願考案の出願当時存在していた以上、そのような材質のものを選定することは、当業者にとつて格別困難なことであるとは認め難く、仮に超ねじれ刃と直状の刃とがリーマの刃部として多少技術領域を異にするとしても、この結論は左右されるものではないから、原告の右主張は理由がないものというべきである。

よつて、相違点(1)に対する審決の判断に誤りはない。

(二)  相違点(2)について

刃部の刃のねじれ角は、本願考案においては左約六〇度であるのに対し、第一引用例にはチツプが螺状に植えられているとされているのみであつて、その角度についての記載はない。

しかしながら、第二引用例記載のリーマの刃のねじれ角が左七〇度以上のものであることは前記のとおりであり、右事実によれば、本願考案におけると同様の非常に大きなねじれ角の刃を有するリーマが本願考案の出願当時公知であつたと認められるから、第一引用例記載のリーマに右公知のねじれ角を応用して本願考案のようなねじれ角のものとすることは、当業者において容易になしうる程度のことと認めるのが相当である。

原告は、本願考案における左ねじれ角約六〇度というのは、従来採用されていたねじれ角に関する技術常識を打破し、実験の結果得られた最適数値であつて、これにより軽い切削力で作業ができるとともに、穴の加工ずみの壁面に荒い凹凸が生じないものであり、右ねじれ角を採用することは当業者が極めて容易になしえたことではない旨主張するが、以下説示するとおり、右主張は理由がないものというべきである。

まず、成立に争いのない甲第二号証の一ないし三、第三号証、第八号証、第二〇、第二一号証によれば、本願考案における刃のねじれ角について、実用新案登録願書に添附された明細書の実用新案登録請求の範囲には左五〇ないし七〇度と記載されていた(もつとも、考案の詳細な説明には、五〇ないし八〇度のねじれ角を有する実施例について記載されている。)が、昭和四九年七月三〇日付手続補正書により左約五〇ないし七〇度と補正され(実用新案出願公告は右補正による数値をもつてなされている。)、さらに、昭和五五年五月二七日付手続補正書により左約六〇度と補正されたものであることが認められ、右事実と、右甲号各証によつても、刃のねじれ角が約五〇ないし七〇度であることと約六〇度であることとの間に技術的意義を異にするとみなければならない格別の理由が存することを見出すことはできないことからして、本願考案においてねじれ角左約六〇度と限定したことに格別の技術的意義はないというべきである。

次に、成立に争いのない甲第一六、第一八号証(いずれも原告代表者作成の報告書)には、刃のねじれ角が〇度、一二度、二四度、三六度、四八度、六〇度、七二度の各リーマについて、喰付き角を、ねじれ角が四八度以下のものは四五度、ねじれ角が六〇度のものは一度三〇分、ねじれ角が七二度のものは一〇度として、切削力(推力及び回転力)につき実験したところ、ねじれ角が六〇度のリーマが最も切削力が軽いという結果を得た旨記載されていることが認められるが、リーマの喰付き角は、リーマの寸法、リーマの行う作業の内容によつて変動させるものであるところ、右実験をするに当たり、ねじれ角六〇度のものについては一度三〇分、ねじれ角七二度のものについては一〇度の各喰付き角と特に限定したことについて合理的根拠はなく、本願考案においては喰付き角が一五度以下とされていることを併せ考えると、右実験結果をもつて、刃のねじれ角が六〇度のリーマが最適数値のものであつて、七二度のものよりも一般的に切削力が軽く、穴の加工ずみの壁面に荒い凹凸が生じないということを裏付けたことにはならないというべきである。

ちなみに、成立に争いのない甲第六号証の一によれば、左ねじれ角が七〇度以上のリーマに関するものにつき記載している第二引用例には、同引用例の第一図について、「切刃12、13は、前方部分19上を前方に向けて先細りになりながららせん形状に連続しており、この先細り部分の大きさと長さは、リーマの寸法とリーマが行う作業の特徴によつて変つてくる。鋼鉄に対して工作作業を行つている直径3/4インチのリーマにおいては、その長さが1/2インチ以上の場合は、一インチ前方に進むにつれて〇・〇二インチずつ先細りになつている。」(第二頁左欄第二〇ないし第三〇行)と記載されていることが認められ、右記載によれば、第二引用例の第一図記載のリーマの喰付き角は〇度三五分であつて、前記実験においてねじれ角七二度のものについて採用された喰付き角とは著しく異なつている。また、第二引用例の第三図記載のリーマの喰付き角については明細書に記載がなく、ただ図面上は約一〇度のものが示されているけれども、第一図のリーマの喰付き角は〇度三五分であるにもかかわらず図面上は約三度に表されているというように第二引用例の図面はすくなくとも喰付き角に関する限り必ずしも正確なものとはいえないことからすると、第三図記載のリーマの喰付き角を一〇度のものとすることは妥当ではない。これらの点からいつても、前記実験結果をもつて、原告の前記主張を裏付けるものとは認め難い。

以上のとおりであつて、相違点(2)に対する審決の判断に誤りはない。

(三)  相違点(4)について

案内部の径について、本願考案においては刃部の外周より僅かに小さな外周として形成されているのに対し、第一引用例にはこの点についての記載はない。

原告は、本願考案に係るリーマの案内部2を右のような構成としたことによつて、案内部2はバニシング作用をするのに対し、第一引用例記載の考案におけるシヤンク13は、リーマの振れ防止のために加工穴外部に設けたガイドブツシユに、回転自在に保持されるための部材であつて、バニシング作用をするためのものではなく、したがつて、刃部の径とは関係がなく、仮にシヤンク13がバニシング作用をするものであるとすれば、それは刃部より大径のものとして形成されなければならないのであつて、いずれにせよ、第一引用例記載の考案における案内部(シヤンク13)は刃部より小径であるはずであるとの審決の判断は誤りである旨主張する。

そこでまず、本願考案における案内部2がバニシング作用を行うものであるか否かについて検討する。

本願考案にかかるリーマにおいて、案内部2は刃部1と柄部3との間に設けられた部分であり、刃部1によつて加工された穴へ入り込むものと解するのが相当であるから、案内部2が加工された穴に入り込みにくい大きさであつてはならず、したがつて、案内部2が刃部1の外周よりも小さい外周で形成されるべきものであることは技術常識から当然のことである。

ところで、バニシング加工とは加工された穴の内面の仕上げを行うために、加工された穴の内径より僅かに直径の大きい部材を圧入して滑らかな仕上面を得る加工法であるから、通常、刃部よりやや大径のバニシング加工部材を使用するものと考えられる。

さらに、本願考案においては、刃部1は全体を超硬合金により一体として形成し、これを別部材である案内部2の前端部に離脱不能に固着するものとして構成されているのであるから、右構成よりすれば、案内部2の材質は超硬合金で形成されていないものと解するのが相当であり、むしろ案内部2の材質は柄部3と同一の材質により形成されているものと解するのが相当であるところ、原告が主張するように、超硬合金で形成されている案内刃6によつてもバニシング作用を行うものとすれば、材質を異にし、案内刃6より小径の案内部2もあわせてバニシング作用を行うということは首肯し難いところである。

もつとも、前掲甲第二〇号証によれば、本願考案の昭和四九年七月三〇日付手続補正書に添附された訂正明細書の考案の詳細な説明には、「案内部2によりバニシングを促進させる」(第四頁第一四、第一五行)と記載されていることが認められるが、案内部2の外周を刃部1の外周より僅かに小さくすることのみによつて、直ちにバニシング作用を行う構成が開示されているものと認めうる理由はなく、むしろ案内部2にバニシング加工手段を施こすことによりバニシングを促進させうるものと解するのが相当であつて、右記載をもつて案内部2がバニシング作用をするものと認める資料とすることはできない。

原告は、従来のバニシング作用は刃部より大径の部分で行うものであり、穴の内壁をむしり取つて広げ、リーマと穴の焼付き現象を生じ、加工が不能となる虞があり、これに対し、本願考案の場合、切削油のため収縮現象の生じた穴をバニシングするため焼付き防止に効果的であり、正確な寸法の精度の高い仕上り穴を得ることができる旨主張するところ、刃部により切削した部分に対しバニシング加工を行うに際して、切削油を流しながら行うことは一般に焼付き防止のため必要とされる技術手段であつて本願考案に特有のものではなく、しかも、バニシング作用は正確な寸法の精度の高い穴を得るものであることはいうまでもなく、該目的を達成するため被切削材の材質、穴の径の大きさ等の要因を考慮して刃部の径に対してバニシングを行う部材の径を設定することは技術上当然になすべきことであるから、本願考案に限つて正確な寸法の精度の高い仕上り穴を得ることができる旨の原告の主張は理由がないものというべきである。

ところで、前記のとおり、当事者間に争いのない第一引用例記載のリーマの構成によれば、第一引用例記載の考案におけるジヤンク13は刃部の後方に位置し、シヤンク13の後方に装着用柄部11が設けられていることは明らかであり、右構成よりすれば、シヤンク13は刃部によつて加工された穴に入り込みうるものであつて、本願考案における案内部2に相当するものというべく、したがつて、ジヤンク13の外周は刃部の外周より僅かに小さいものとして形成されているものと認めるのが相当であつて、これと同旨の審決の相違点(4)に対する判断に誤りはないものというべきである。

(四)  相違点(5)について

本願考案においては油溝の条数と刃部の条数とが等しいが、第一引用例記載の考案においては油溝の条数と刃部の条数が相違している。

前掲甲第二〇号証によれば、本願考案の前記訂正明細書の考案の詳細な説明には「油溝9より油を注入することにより加工を極めてスムースに行うことができ、」(第四頁第一五ないし第一七行)と記載されていることが認められ、右記載よりすれば、本願考案において油溝9の条数と刃部1の条数を一致させたのは、油が油溝を経てすべての刃4に均等に供給されるためであるものと認められる。

ところで、リーマ加工において切削油を注入することは不可欠であり、しかも、すべての刃に油が達しなければならないことも当然のことであつて、成立に争いのない甲第五号証によれば、第一引用例記載のリーマにおいてもシヤンク13に設けられた油溝により油がすべての刃に達するように構成されており、具体的には二条の油溝から供給される油は、油溝と刃部の間に形成された周溝に入り、この周溝からすべての刃に供給されるものであることが認められる。

第一引用例記載の考案において、油溝と刃部との間に周溝のような手段を介在させない場合には、刃部に均一に油を供給するために刃部の条数に対応して油溝の条数を設ける必要が存することは当然であつて、油溝の条数をどの程度にすべきかは、必要に応じ、当業者が設計的に選択しうる程度のことというべきである。

よつて、相違点(5)に対する審決の判断に誤りはない。

2  本願考案の奏する実用上の効果の看過、誤認の存否について

本願考案が原告主張の実用上の効果を奏するものであることは当事者間に争いがないが、原告は、右効果は第一ないし第三引用例記載のもの及び周知技術からは予測しえない顕著なものである旨主張するので、この点について検討する。

(一)  切削トルクが非常に軽いという効果について

原告は、右効果は刃4のねじれ角を左約六〇度に設定したことによるものである旨主張する。

たしかに、本願考案にかかるリーマの刃は超ねじれ角であるため、リード分だけ直刃のリーマに比べて刃部の長さが長く、したがつて、第一引用例記載のリーマに比べると、本願考案にかかるリーマの方が右効果は顧著であるということができるが、右効果に関して、本願考案にかかるリーマの方が刃のねじれ角が左七〇度以上である第二引用例記載のリーマよりも顕著であるとは必ずしも認め難いことは、前1項(二)に説示したところから明らかであつて、原告の右主張は採用できない。

(二)  精密美麗に能率よくリーマ加工ができるという効果について

前掲甲第八、第二〇号証によれば、本願考案の前記訂正明細書の考案の詳細な説明には、「刃部1が左約五〇ないし七〇度ねじれているため喰付部の刃付の長さが直刃リーマに比べてリード分だけ長くなり、従つて精密美麗に能率よくリーマ加工でき」(第四頁第四ないし第七行)と記載されていたが、昭和五五年五月二七日付手続補正書により、右「約五〇ないし七〇度」という記載部分は「約六〇度」と補正されたものであることが認められるところ、原告は、本願考案の実施品と第一ないし第三引用例記載のものの実施品について行つた性能試験の結果、本願考案の実施品が精度面において総合的に最も優れたものであつたことは大阪府立工業技術研究所作成の昭和五八年一月二一日付報告書(成立に争いのない甲第一一号証)によつて明らかであり、本願考案の奏する右効果は顕著なものである旨主張する。

しかしながら、次の段で説示するとおり、甲第一一号証記載の性能試験において本願考案の実施品とされたリーマEは本願考案とは異なる構成からなるものであり、第一ないし第三引用例記載のものの実施品とされたリーマA、B、C、Dは、形状等につき具体的な数値が十分に示されていないため設計図面もしくはそれと同等のものとは評価できない各引用例の図面に基づいて製作されたにすぎず、実用上使用しえないものなどであつて、これらを被試験物としてなされた試験結果は原告の前記主張を裏付けるものとすることはできない。

まず、本願考案においては、「刃部1は全体を超硬合金により一体として形成し」かつ、「案内部2の前端部に前記刃部1を離脱不能に固着した」として構成されているのであるから、右構成よりすれば、前記説示したとおり、本願考案にかかるリーマの案内部2は超硬合金で形成されていないものと解されるにもかかわらず、成立に争いのない甲第一七号証(大阪府立工業技術研究所機械工作研究室大山博作成の報告書)によれば、甲第一一号証記載の性能試験において本願考案の実施品として試験に供されたリーマEは案内部も超硬合金で構成されていることは明らかであつて、右リーマEは、本願考案の実用新案登録請求の範囲に記載された構成とは異なるものである。

また、本願考案においては、前方に約一五度以下の喰付き角5のテーパーを形成するものとされているところ、右リーマEの喰付き角は一度三〇分であり、仮に、喰付き角を右より大きな角度(例えば、一〇ないし一五度)を採用した場合に、喰付き角が一度三〇分のものと同様の作用効果を奏するかどうかは疑問である。

次に、甲第一一号証記載の性能試験において第三引用例記載の考案の実施品として試験に供されたリーマAは、前掲甲第一七号証によれば、第三引用例の第二〇六頁第二・一〇八図(超硬付刃リーマ)に基づいて製作されたものと認められるが、第三引用例によれば、リーマの径が八mmφ以上のものでは付刃リーマの使用が一般的で、それには、<イ>切刃の全長にわたつて超硬を付刃とするものと<ロ>先端部のみに超硬チツプを付刃するものの二種があり、右第二・一〇八図は右<イ>のものを説明するために図示されたものであつて、同図にはリーマの径、喰付き角、喰付き部の長さが示されているだけで、右以外の条件等は全く不明であり、もとよりこれをリーマの設計図面もしくはそれと同等のものと評価できないことは明らかである。

右のとおり、前記第二・一〇八図は、リーマの径が八mmφ以上のもので、切刃の全長にわたつて超硬を付刃するものの説明図面にすぎず、リーマ全体につき図示されているといつても前記部分の数値が示されているのみであるから、右図に示されたとおりの製品を製作しても、実用上使用しうるものであるかどうかは疑問であるといわざるをえない。

また、前記性能試験において第一引用例記載の考案の実施品として試験に供されたリーマBは、前掲甲第一七号証によれば、第一引用例の第1図及び第2図に示されたものとほぼ同様の形状のものであることが認められるが、成立に争いのない甲第五号証によれば、第一引用例の実用新案の説明には、「本実用新案は図示のように一端にテーパーを有する装着用柄部11を具え要すれば螺状の油溝12を周面に穿つた棒状シヤンク13の他端頭部に複数個の細長形の超硬合金又はその他の耐熱耐磨耗性材料からなるチツプ14を直状または螺状に植えた型式のリーマーの改良された構造に係る。」(左欄第七ないし第一二行)、「本実用新案では上記チツプ14中の一個又は複数個を例えば八個のチツプ14を有するリーマーでは二個が適当であるが、特殊形状のチツプ15に置換せしめることによつて上記切削痕をなからしめ所謂黒光りと呼称される斑の光条のない奇麗な仕上面を生ぜしめることができる。」(左欄第二〇行ないし右欄第四行)と記載されていることからも明らかなように、第一引用例記載の考案は、リーマのチツプの改良に関するものであり、その形状を理解しやすいように、第1図、第2図には喰付き角、逃げ角等が記入されてはいるものの、リーマ全体における各部の具体的な寸法については明示されておらず、第一引用例記載の考案に基づきリーマを製品化する場合には、他の種々の条件を加味して製作するものであつて、右第1図、第2図記載のとおりのものが製品化されることはありえないことというべきである。

さらに、前記性能試験において第二引用例記載の発明の実施品として試験に供されたリーマC及びリーマDは、前掲甲第一七号証によれば、第二引用例の第一図に示された形状のものと類似しているが、第二引用例の第一図に関しては、刃部のねじれ角が左七〇度以上であり、かつ、喰付き角が一インチ当り〇・〇二インチ、すなわち約〇度三五分であることが明細書に記載されている以外、他の構成については具体的数値等が明示されておらず、しかも、前1項(二)において説示したとおり、第二引用例の図面は必ずしも正確なものとはいえないのであつて、このような正確さを欠く図面に基づき、また喰付き角を明細書に記載されたものとは異なつたもの(一〇度)として製作されたリーマC及びリーマDを第二引用例記載の発明の実施品とすることは相当ではない。

以上のとおり、甲第一一号証記載の性能試験は、本願考案の実施品とはいえないもの、引用例の図面に基づき製作されたにすぎず、実用上使用しえないもの、引用例記載の考案の実施品とはいえないものによりなされたものといわざるをえない。

そして、本願考案において仕上面粗度が良好であるのは、案内刃6によりバニシングを行い、かつ、ねじれ角の大きい刃部1にゆるやかな喰付き角を設けたことによるものと解するのが相当であるところ、第一引用例記載のリーマも刃部の後方を案内刃とし、右案内刃によりバニシング作用が行われるものであること(先に摘記した第一引用例左欄第二〇行ないし右欄第四行参照)、第二引用例記載のリーマのねじれ角は七〇度以上であり、喰付き角は一度未満のものも開示されていることからすると、本願考案の仕上面粗度が良好であるという効果は、第一、第二引用例記載のものから予測しえない格別のものであるとすることはできない。

また、本願考案において円筒度、真円度が良好であるのは、リーマの芯が振れないことによるものであると解されるところ、第一引用例記載の考案におけるシヤンク13はリーマの案内部に相当するものであつて、シヤンク13の作用により第一引用例記載のリーマの芯の振れは少ないものと認められるから、本願考案の右効果を格別のものであるということはできない。

(三)  耐磨耗性に優れていて寿命が非常に長いという効果について

前掲甲第二〇号証によれば、右効果は、「左超ねじれであるためリード分だけ直刃リーマに比べて刃部の長さが長く、且つ刃部1が超硬合金により形成されているため」(本願考案の前記訂正明細書第四頁第七ないし第九行)であると認められるが、刃部が超硬合金により一体として形成されると、その材質から耐磨耗性に優れ、かつ、寿命が非常に長くなることは技術常識に属する事項であるといつてよく、右効果は、刃部全体が超硬合金で形成されている第三引用例記載のリーマにおいても奏されるものであつて、本願考案において奏される格別の効果であるということはできない。

そして、刃部を本願考案と同様の超ねじれ角とすることが第二引用例に示されていることは前記のとおりであり、刃部を超ねじれ角とした場合には、直刃のリーマに比べて加工穴に対する刃の接触部分が多くなることは当然の作用にすぎない。

右のとおりであつて、本願考案の奏する前記効果は、第二、第三引用例記載のものから容易に予測しうる程度のことというべきである。

(四)  加工を極めてスムースに行うことができるという効果について

前掲甲第二〇号証によれば、右効果は、「油溝9より油を注入することにより」(本願考案の前記訂正明細書第四頁第一五、第一六行)奏されるものと認められるが、前記のとおり、第一引用例記載のリーマにおいても、シヤンク13(案内部)に設けられた油溝により油がすべての刃に達するように構成されており、右構成により焼付きが防止され、そのためスムースに加工を行うことができるものと認められるから、本願考案の奏する前記効果を格別のものと認めることはできない。

以上のとおりであつて、本願考案と第一引用例記載の考案との相違点(1)、(2)、(3)、(4)に対する審決の判断及び本願考案の奏する実用上の効果に関する審決の認定、判断に誤りはなく、審決に原告主張の違法はないものというべきである。

三  よつて、審決の取消しを求める原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとする。

〔編註その一〕本願考案の要旨は左のとおりである。

刃部1案内部2及び柄部3より成り、刃部1は全体を超硬合金により一体として形成し、刃4は複数条より成ると共にねじれ角は左約六〇度とし、且つ前方に約一五度以下の喰付き角5のテーパーを形成すると共に後方は案内刃6とし、さらに喰付き角5を有する刃4外面には約五度以下の逃げ角7を形成し溝8の形状を鋸刃形とし、案内部2は前記刃部1の外周より僅かに小さな外周として形成すると共に刃部1の条数に一致させた条数の油溝9を左約五~二〇度のねじれ角として案内部2に形成し、案内部2の前端部に前記刃部1を離脱不能に固着したことを特徴とするボーリングリーマ。(別紙図面(一)参照)

〔編註その二〕本件に関する図面は左のとおりである。

別紙図面 (一)

<省略>

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